七十二





*虹始見*



虹が掛かる、雨上がりとあってとても清々しくて良い。
「慶次、それ見ぬか、虹だ」
慶次は虹だね、と笑って空を見上げる。
そして続けて。
「見上げ続けるのも首が痛い…ここはひとつ寝てみてはどうだぃ?」
ここは俺の庵だし?と慶次はもう寝そべっていた。
だが兼続は良い顔をしない。
どうやら夜でもないのに寝転がるというのが頂けないらしい。
虹が短い命だって事を知ってるからか、目付けを剥がそうとはしないが。
時折首を擦っては、結い上げた髪をゆらゆらと揺らしている。
「…頑ななのは可愛くないぜ?」
肘を突いて、慶次は空を見上げている。
ふっと色が薄くなった気がした。
「…刹那に命を燃やして居るのだ、敬意を払わねば…」
一理あるな…と慶次が呟いた途端。
「あ」
虹は跡形も無く姿を消した。
兼続は見上げる事をやめ、頭を下げる。
空を借景に黒く浮かび上がる兼続。
其れを目を細め、見遣る慶次。
やがて着物が翻り、慶次は笑顔を作った。
「…私も横に失礼しても良いか?」
それはどちらからともなく、湧き上がった感情のように。
慶次は立ち上がろうとしていて、兼続は横たわろうとしていた。
そんな中途半端なお互いに、お互いは似てるねと笑いあう。