七十二





*桐始華*



「鳳凰が舞い降りるか…」
燃え上がれば良いものを。
爆ぜて朽ちればいいものを。
灰燼となりて風に攫われ四散すれば、いいものを。
庭先に桐が咲き始めた。
兼続はそれを朦朧とした意識で知った。
いや、改めて意識しなおしたのだ。
駄目だ今日は酒に酔っている。
柄にも無く、体が侵されている。
「…どうせなら、獅子でもいざなっておくれよ…」
そなたがこの庭で、桐を見上げて綺麗だと零していたのが目に浮かぶ。
空気も爽やかに、空は晴れ渡っていた、唯清々しいあの砌。
兼続は障子を閉めようとふらつきながら立ち上がる。
宵から飲んでいたはずなのに、いつのまにか陽が南中である。
だらしのない…と頭を振れば。
足元がおぼつかなくて、障子に寄りかかるようにへたり込む。
目下には、味気の無い景色が広がる。
夏の眩しさがちらつき始めた庭。
春の匂いが掻き消される軒先。
あぁ、気が狂いそう。
「………慶次……」
呼べば、思い出のそなたはこちらに向いて、微笑むのだ。
兼続は廊下に雪崩れた体をそのままに、庭に腕を伸ばす。
「…連れて行ってくれよっ…!」
途端、伸ばした腕が地を突いた。
乗り出した身が、空を切って庭に落ちたのだ。
「…止めを、刺してくれ…………頼むよ……」
鼻を掠めた土の香りが、現を抜かさせてくれない。
土に立てた爪に、血が滲む。