七十二





*雷乃発声*



雲の谷間から薄い筋が光っては消える。
暫くして遠くから雷の音が届く。
稲光もいとけないと可愛らしく感じる、と笑うそなたは誠、奇天烈。
「…いかづちをそのように愛でた男は初めてだ、生きてきた中で」
慶次を窺うと、はっはーと大笑いし、遠山の目付けをした。
「本格的なのは御免蒙るが、視界の端で小さく光るのを見つけるのは面白い」
目を凝らして見ててみな。
促され兼続は、どれと興味本位で茶を片手に近づく。
まぁ、天空は生憎白さが目立つ模様で、なるほど見つけてみるのも愉快かもしれない。
慶次に茶菓子を渡しながら、兼続は空を見上げた。
見上げて直ぐには光らないのはこの世の常。
ふと、暇を潰そうと菓子なんぞに手を伸ばしたときに光るのは、天地神明の意地悪。
例によって、兼続が見上げてから暫くは、光るどころか空に亀裂さえ入らない。
「…ふむ、私は恵まれておらんのか…」
などと、零した瞬間だった。
本当に視野の隅で薄い一閃。
…可愛らしいと言うか、味気ないといおうか…
「…慶次は変わっているな!?」
言った時には、既に慶次の手が、懐から臍にかけて忍び込んでいるではないか。
「そな、」
兼続は惨事なるといけないと思い、慌てて湯飲みを床に置いた。
それが合図となろうとはどうして考えの至る所であろうか。
「ほらほら臍を盗られちまうぜ?」
「止めぬかっ、擽ったいではないかっ」
「俺が守ってやるから」
何て押し倒しながら言うんだから、調子が良いってもんじゃない。