七十二





*玄鳥至*



慶次は己の庵に同居を目論む鳥に、柔らかく笑いかけた。
小間使いが、役目の終わった巣は綺麗に掃除しちまって、今年も一から手作りだ。
…例えば、生まれる餓鬼からしたら最初で最後の住処かもしれない。
だが、毎年帰ってくる番にしたらたまったものではないだろう。
「…まぁ、精々励みな」
勝手に棲みやがってなんて、目くじら立てたりはしねぇよ。
寧ろ、独り身には賑やかになってて良いってもんよ。
と、此処まで自分を正当化するような文句を。
せっせと巣を作っている二羽の燕に対して呟いた。
そして慶次は己の頭を掻いた。
寝起きなものだから、垂れ髪を遊ばせてだらしないっちゃだらしない格好。
まぁ照れ隠しに掻き揚げるのだから、結ってなくてよかったが。
庭の石の窪みに溜まった水が、鏡のように銀に輝く上を、燕が行く。
作りかけの庭に腹を付けんばかりに燕がまた遠くに飛んで行く。
…近いうちに雨が降る。
慶次は嬉しそうに頬を緩めた。
雨が降れば、あんたは本を持って俺の所にやってくる。
そんなあんたに、俺は言うのさ。
あんたの慈しんだ大地が、燕が舞い戻って来るほどに、豊かになったみたいだよと。