「…石田の坊ちゃんじゃ…無いですか……、俺を殺しに来ましたか…?」
何故か皮肉めいた言葉が出た。
目の端に刃物の鈍い光を見つけ俺はそれに手を伸ばした。
それが刀を持った腕と知り、己の傷口に近づける。
あんたも俺が憎いだろう、誰もうに刺されても同じことだ刺せば良い、そんなことを考えた。
「止めを…さしてくれ…痛いんだ………」
「今、今、人を呼んでやる、動くな死ぬぞ!!」
だが、どうやら神とやらは優しくないらしい。
坊ちゃんは転げるように店を出て行った。
寝返りを打つように体を返す。
すると、思った以上の激痛が走り、腹の下に広がる血が水でも零したように更に広がる。
「…っ……!」
霞む己の店の床、なんとか刃物を探すが見つけられない。
左近は這いずって、カウンターの床から回って直ぐの台所まで行った。
歩けば数歩の距離が、これ程までに辛くて痛い、遠いものだと思ったのは初めてだった。
しかし、目的の包丁立ての下に来て、包丁まで手が届かない。
死のうと、努力している。なんともいえない逆説。
壁に沿って立つことも出来ない、早く楽になりたい、痛みが笑える程、波をもって襲う。
左近は料理酒として使ってた安い酒を目に留めた。
一人で今まで生きてきて、怪我が酷いときに酒を飲むの不味い事と知っていた。
血で滑る瓶を持って、酒の栓を口で開けた。
酒は重力に従い、顔に降り掛かる。
それに驚き、左近は上手く瓶を持ち続けられず、酒は傷口に降り掛かる。
「くっ…!ああぁあっ!!!」
もう何がなんだか分らない。
ただ、胸が腹が焼けるように熱くて痛い。
途端伏せた瞳に明るさを感じた。
神か仏かお出迎えだと思った。
「…っ、生きているか!!!」
やはり頭は酷く錯乱しているようだ。
どうしてこの少年が、声色を必死に生きているかなどと俺に言うのだ。
「…俺の体…頑丈みたい…から、迎え…酒……、坊ちゃんが、楽に…させてくれな……から」
無理に喋ったら、手に持った瓶さえ持ち続けられなくて、硝子が割れる音がした。
次