峻悄 玻璃帛









慶次は兼続の頭を強く押さえて、其の侭抱き上げた。
発育途中の華奢な体が、執拗にしがみ付く。
景勝が居た場所を目で追って居ない事を理解するのと、己の部屋に逃げるように雪崩れ込んだのは同時だった。
部屋に散らばる楽譜を踏んで、天蓋の布を強引に分けて、少年とも青年とも分らぬその体をベッドに沈める。
こんなに、誰かを強く望んだ事は無かった。
性欲ではない、それはともすれば相手の息の根を止めてしまうような、深い独占欲。
誰にも見せたくない、だから部屋に連れ込んだ、閉じ込めてしまいたい、だからもっと部屋の奥に隠そうとした。
その柔い顔を見たいと思い、抱え込んだ力を緩めると、兼続は否だと頭を振って爪を立てる。
離さないでと、血を吐くような言葉に、慶次は返事も出来ずに強く抱いた。
薄い布が四角く囲んだ余りに脆い小さな空間。
そこだけは、何者にも邪魔されない二人だけの世界。
「…今だけ…あと、少しだけ…私に、時間を……下さい…っ」
どんなに今を永遠にと、望もうと叶うはずがない。
力一杯に引き寄せていた手が、力が入らないのだろう。
釦に指を引っ掛けるようにして、なんとか間を埋めようとしている兼続。
「…俺だけのものになってくれよ。」
体を剥がすと、兼続の力の入らない腕が宙に遊んで、俺は其れをシーツに押し付けた。
兼続は見張った目を苦しそうに細めた。
「…そんなこと、叶うわけ無いじゃ無いですか…っ!」
あなたは、男であり他家の人間であり。
元より、私達は誰も慕ってはいけない身の上なのは、あなただって知ってるはずだ!
続く言葉はその重さに耐え倦ね声になっていなかった。
慶次は指を解いて覆い被さり、声を殺して泣いてるその唇を吸った。
組み敷いている体が硬くなり、その濡れた瞳が俺を映す。
意識無く身を捩り足をばたつかせ逃げようとしているその体を、慶次は乱暴に掻き寄せる。
烏の濡羽の長く麗しい黒髪が、もがく度に波打って乱れ、金色の髪がそれに交じる。
逃がさない。
そんな誰かの作った常識なんかで、失って堪るものか。
慶次は学生服に手を掛け、その釦を外した。
その下のシャツにまで手を伸ばし、ブレイシーズの留め金を外す。
力なく振る頭が口付けを善がっている様に思えて、慶次は舌を絡めた。
汗ばんで絖の如く滑らかで白い肌が、独占欲に隠れていた性欲を呼び覚ます。
俺のものにしなければ、逃がしはしない、終われない。
このまま、このまま…!
慶次の唇に押し殺される兼続の喘ぎ声は、出会った事を嘆く嗚咽にも似ていた。